2009年7月21日 (火)

ES細胞研究の規制緩和へ

 「脳死は人の死」とする改正臓器移植法(A案)が713日に可決・成立した。しかし、臓器移植は脳死判定をめぐって、その倫理性が問われている。倫理性には宗教観・死生観という文化的な背景もあり、今後も様々な議論を呼ぶであろう。一方、こうした倫理的問題を解消する可能性を秘めたiPS細胞による再生医療には、その実用化に向けて世界が注目している。頻繁に新聞で取り上げられている万能細胞について、『朝日新聞』と『読売新聞』にそれぞれ異なる視点による記事が掲載されていたのでご紹介しよう。

続きを読む "ES細胞研究の規制緩和へ"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月29日 (金)

サイエンス、日本、そしてハーバード:高まる「こころ」への関心

 アメリカ、ハーバード大学に設置されているライシャワー日本研究所は、ライシャワー元米国大使が創立した研究所で、日本の政治、経済、社会、文化についての幅広い研究活動を行うだけではなく、日本や米国内の研究機関と積極的な交流事業を展開していることでも著名な研究所である。          

 

続きを読む "サイエンス、日本、そしてハーバード:高まる「こころ」への関心"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月14日 (木)

万能細胞に関する最近のニュース

 本blogでも、何度か取り上げている 万能細胞(ES細胞、iPS細胞)。今年(2009)に入ってからも万能細胞に関するニュースが頻繁に報じられている。以下に、朝日新聞の記事をいくつか紹介しよう。

■ガードナー国際賞の受賞

 1つ目は、ガードナー国際賞に、京都大iPS細胞研究センターの山中伸弥教授と京大大学院理学研究科の森和俊教授が選ばれたことだ。ガードナー賞とは、医学の分野で大きな発見や貢献をした研究者に贈られる国際賞で、歴代受賞者の4人に1人はノーベル賞を受けており、米ラスカー賞と並び化学者の「登竜門」とされる賞だ。日本から過去6人が受賞している。

 山中教授は06年、マウスの体細胞からほぼすべての細胞に分化する能力を持つiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作ったと報告。翌年にはヒトでも成功した。森教授は93年に細胞内の小器官「小胞体」で、過って作られた不良品のたんぱく質を感知するセンサー分子を発見し、不良品がどう処理されるかを明らかにした。

 山中教授は06年にiPS細胞をマウスからつくったと発表して以降、受賞ラッシュが続いている。京都大によると、4月1日現在、紫綬褒章を含めると23にのぼる。山中教授は会見で「iPSといえば日本となるよう、5年後、10年後に向けて頑張りたい」と話した。10月にカナダ・トロントで授賞式がある。

続きを読む "万能細胞に関する最近のニュース"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年3月 6日 (金)

脳と「こころ」と瞑想

■脳の機能と瞑想の関係
 本ブログにおいて、以前より何度か取り上げている「脳とこころ」。 このトピックに関する新聞記事を調べていたところ、瞑想をすることで脳に様々な変化が起こるという記事があることが分かった。

■深い腹式呼吸で心と体がスッキリ
 2008年8月20日付け『読売新聞』では、瞑想がどのような影響を脳に及ぼすかを紹介している。
 記事によると、現代社会を生きている中で、知らず知らずのうちに蓄積した心身の“ゆがみ”を正す手段として、坐禅が注目されているとのこと。瞑想のメカニズムに詳しい東大医学部准教授の熊野宏昭氏(ストレス防御・心身医学)は、「脳科学の視点から見ても大きなリラックス効果がある」と坐禅の効用を説明する。

続きを読む "脳と「こころ」と瞑想"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年2月 4日 (水)

1998年の読売新聞(東京版)の「心のメカニズム」特集

 近年、新聞等で頻繁に取り上げられるようになった「脳科学」について、1998年の読売新聞(東京版)で大変興味深い記事があった。毎週朝刊に掲載されていた「心のメカニズム」特集だ。1998年当時、世の中が注目した「身近な話題」と「脳」の関係性を紹介している。

■脳は大きな目標が必要
 1月22日の本blogにて、寺尾研究員が執筆した【書評】松本元著『愛は脳を活性化する』(岩波科学ライブラリー42、岩波書店、1996年)の著者が第12回の連載に登場する。

続きを読む " 1998年の読売新聞(東京版)の「心のメカニズム」特集"

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2009年1月 9日 (金)

「科学と仏教の接点」の探索

□講演会「科学と仏教の接点」 
 昨年9月、東京で、認知脳学者の藤田一郎氏(大阪大学)と原始仏教を専門とする佐々木閑氏(花園大学)を講師とする講演会「科学と仏教の接点」が開催された(主催は、花園大学と東京禅センター)。
 その報告記事が、『朝日新聞』2008年10月24日(→こちら)に掲載されており、また、聴衆のアンケート結果が、東京禅センターのHP(→こちら)に紹介されている。
 すでに、本blogで、寺尾寿芳研究員が佐々木氏の著作『犀の角たち』(大蔵出版、2006年)の書評(→こちら)を執筆しており、この中で、寺尾氏は次のように述べている。

続きを読む "「科学と仏教の接点」の探索"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年12月19日 (金)

1980年代の「脳科学」の新聞報道

□市民権を得た「脳科学」?
 最近、書店で、「脳科学」関係の書籍を目にすることが多い。例えば、認知神経科学を専門とする坂井克之氏(東京大学大学院医学系研究科助教授)『心の脳科学―「わたし」は脳から生まれる 』(中公新書)や、心の哲学、現象学、倫理学、応用倫理学を専門とする河野哲也氏(立教大学文学部教育学科教授)『暴走する脳科学』(光文社新書)などは、最近刊行された一般読者向けの新書である。
Gpss081219_2  また、専門的なシリーズ本として、東京大学出版会から、「シリーズ脳科学」全6巻が現在、刊行中である。ちなみに、その「第2巻 認識と行動の脳科学」を本プロジェクトにご参加いただいている田中啓治先生(理研BSI認知脳科学研究グループ・ディレクター)が、「第3巻 言語と思考を生む脳」を同じくプロジェクトにご参加いただいている入來篤史先生(理研BSI知的脳機能研究グループ・ディレクター)が編集されている。
 今や、「脳科学」の研究(批判も含めて)は、日本社会で完全に市民権を得たということだろうか。

続きを読む "1980年代の「脳科学」の新聞報道"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年10月10日 (金)

「いのち」の問題(12年前の新聞記事より)

 半年ほど前にこのブログで、ES細胞とiPS細胞をめぐる「いのち」の問題(2008年3月5日→click here)について取り上げたが、1990年代にもこの「いのち」の問題について取り上げている新聞記事があったので紹介したい。 
 「脳死論議の道筋 日本人のこころと体 座談会」という題名で、1992年3月30日付の『朝日新聞』夕刊の「こころのページ」に掲載された記事だ。「日本人のこころと体」という観点から、生命倫理の在り方、最先端科学の分子生物学などについて、中村雄二郎氏(哲学)、中村桂子氏(生命科学)、木村利人氏(生命倫理)の3名が議論をしている。
 ちなみに、この年(1992年)の1月22日には、「臨時脳死及び臓器移植調査会(脳死臨調)」によって、「脳死を人の死とする」として、一定の条件下で脳死体からの臓器移植を認める趣旨の答申が提出されており、脳死をめぐる論議が活発化していた時期に、この座談会は行われたことがわかる。
 周知の通り、その後、1997年7月16日に「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」が施行されることになる。

続きを読む "「いのち」の問題(12年前の新聞記事より)"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月26日 (金)

Jeff Hawkins氏のTEDでの講演“Brain science is about to fundamentally change computing”

□脳科学はコンピューターの利用を変える?
Gpss080926b_4  先日、このblogで、TEDというサイトを紹介した。科学、エンターテイメント、デザイン、ビジネス、文化、芸術、グローバルな争点等の幅広い分野の著名人の講演を無料で公開しているサイトである。
 今回は、このサイトで公開されているJeff Hawkins氏の2003年の講演“Brain science is about to fundamentally change computing”を紹介したい。
 当「科学・こころ・宗教」プロジェクトの代表者ポール・スワンソン先生のご推薦である。

click here

続きを読む "Jeff Hawkins氏のTEDでの講演“Brain science is about to fundamentally change computing”"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月 3日 (水)

TEDというサイトをご存じだろうか?

 みなさんは、TEDというサイトをご存じだろうか?
 
 →click here

Pgss080903_2   「TED」とは、Technology Entertainment Designの略で、アメリカのカリフォルニア州モントレーで年1回、講演会「TED Conference」を主催しているグループのことである。
 このTED Conferenceは1984年にサロン的な集まりとして始まり、科学技術、エンターテイメント、デザイン等の分野の人物が講演を行ってきた。2006年から講演の内容がインターネット上で無料で動画配信されることになり、扱われるテーマも科学、ビジネス、芸術、グローバルな問題にまで広がっている(使用言語は、英語)。
 Conferenceは4日間にわたって開催され、約50人が登壇し、講演がなされる。今では、サイト上に200以上の講演が保存されている。

続きを読む "TEDというサイトをご存じだろうか?"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年6月30日 (月)

修行の秘密 科学が迫る

 こちらのブログのテーマでもある、「科学・こころ・宗教」にも関係するであろう興味深い記事がある。座禅、瞑想など宗教的な修行や精神技法が心身にもたらす効果を、脳科学の世界から迫っている記事である。

□読売新聞(2008年3月5日付)
http://osaka.yomiuri.co.jp/kokorop/kp80304a.htm

続きを読む "修行の秘密 科学が迫る"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月29日 (木)

<ヒトクローン胚>研究解禁に向けて

再生医療のためのクローン胚(はい)研究について、文部科学省は5月20日、研究の解禁に向けた指針案をまとめた。こちらのニュースについて、新聞各紙が取り上げている内容をまとめてみた。

□毎日新聞(5月20日付)の記事

http://mainichi.jp/select/science/news/20080521k0000m040087000c.html
http://mainichi.jp/select/science/news/20080521ddm003040075000c.html

また、随時、記事も更新するなど積極的に報じている。

□朝日新聞(5月20日付)の記事

http://www.asahi.com/science/update/0520/TKY200805200296.html

以上、ヒトクローン胚研究を認めることによって生じる問題などにも触れている。

続きを読む "<ヒトクローン胚>研究解禁に向けて"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月16日 (金)

万能細胞についての最近のニュース

 以前、こちらのブログでも取り上げた万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」について新たなニュースが出てきた。そこからは科学というものが、ただ漫然と数学の証明問題を解いているうちにおのずと進歩しているといったようなものではなく、実利という非科学的要因によって強力に影響される事態が読み取れる。
 4月20日付けの中国新聞の社説によると、万能細胞については山中伸弥教授(京都大学)らの研究が他国に先行していると思われていたが、複数の国が特許出願している可能性が明らかになった。以下に記事の概要を紹介しておこう。

□万能細胞の特許出願
山中教授らが世界に先駆けて万能細胞の作製に成功したと発表したのは昨年11月のことで、7月に特許出願もしていた。ところがドイツ系製薬会社のバイエル薬品も同じく成功したと発表し、しかも特許出願は昨年春ごろと思われる。さらに米国からの出願もあるようだ。
 特許に関する基本原則は、同内容の申請に対しては、先に出願した方が権利を得るというものである。しかし、この万能細胞は一般的な新案特許の事例とは異なり、多様な医療応用が可能となる万能細胞の開発であり、人類の医療さらには福祉厚生に与える影響は多大と思われるため、一社だけが今後の研究や商品化について排他的に権利を独占することは望ましくない。

続きを読む "万能細胞についての最近のニュース"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月 7日 (水)

“Creation Museum”「創造博物館」を訪ねる(スワンソン、ポール)

 以前、寺尾研究員による“Creation Museum” (「創造博物館」)の記事(→こちら)を掲載しましたが、今回は、実際に“Creation Museum” (「創造博物館」)を訪問したポール・スワンソン南山宗教文化研究所所長のレポートを掲載します。(管理者)

 3月末に米国を訪問したが、たまたまケンタッキー州北部にある “Creation Museum” (「創造博物館」)を訪れる機会があった(→こちらを参照)。「若い地球」創造論の立場を「科学的」に証明できるとし、教育向けの展示や映画や講演会を提供する場として2007年に創立された施設である。
Cimg1980  まず、目立つのは恐竜の模型で、入り口の外まわりをはじめ(写真1)、施設内のいたるところに登場する。もっとも目立つのは場内に入って間もないところに、恐竜と人間の子供たちが仲良く一緒に遊んでいる場面である。地球は6,000年前に創造された前提なので、恐竜と人間は共存していたことを表現している(これについてまた後に触れる)。そこから続く掲示版や模型は「歴史の歩み」("a walk through history”)として、「若い地球」と「進化論」の立場を対照的に紹介し、宇宙の始まり(創造)から、大洪水による地球破壊、そして近代の反キリスト教的思想の登場を簡略的に紹介している。

続きを読む "“Creation Museum”「創造博物館」を訪ねる(スワンソン、ポール)"

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年3月20日 (木)

背景を視野に収めた思考に向けて

□高い集中度への戸惑い
Gpss080332a_3 日常何気なく気付いている事態に明確な説明を与え、納得するというプロセスにおいて、科学のもつ力と意義は大きい。
 先日の投稿(國府田氏への論評)で、「自分ら専門家として仕事をしてきたなかで、〈何に最も抵抗を感じてきたのか〉、〈どこがいまでも正直好きになれないのか〉といった点に関する真摯な〈懺悔〉が問われている」といささか大げさな物言いをしたが、言い出しっぺの責任を果たすべくわが身を振り返って思いつくこととして、いわゆる「一神教」とされるキリスト教の神がもつ、高い集中度への戸惑いというものがある。つまり信仰においても、神学的な思索においても神への高い集中度が当然ながら要求されるものの、徹しきれず、いささか無理を通して論考を書き上げても、どこかしらに重要な要素を見捨てたような思いがして、不安にさいなまれるという経験を何となく重ねてきた。

□全体的感情に敏感な日本人?
 こうした事情に対する一つの説明となりうる科学的仮説を知る手がかりとして、科学情報サイトWIRED VISIONに掲載された「日本人は『個人より全体的感情に敏感』」(2008年3月11日付記事)を挙げることができるかもしれない。

click here

非常にわかりやすい内容なので、ぜひお読みいただきたいが、「画像を見る時、西洋文化で育った人は、中心に置かれた題材をその周囲のものと切り離して捉えるが、東アジアの人は同じ画像を全体的に見る」というのがその結論である。西洋人の場合、中心人物だけに視線を〈自然に〉限定して背景が目に入らないのに対して、東洋人(この実験の場合は日本人)の場合は背景が印象の内容に影響を与えるのだ。言うまでもなく、これは意志の問題ではなく反応の次元での出来事であり、理性的な思考に先行する。したがって、日本人の場合、すっきりしたイメージが形成されるのは、かならずその形成過程で背景に目が行くことから、中心と背景が調和しているときに限られることになる。そしておそらく背景の要素が多いほど、得られた調和は重みを増すことであろう。

続きを読む "背景を視野に収めた思考に向けて"

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2008年3月 5日 (水)

ES細胞とiPS細胞をめぐる「いのち」の問題

□対極にある「宗教と科学」?
 「宗教と科学は対極にあると思われがち。しかし、例えばカトリック教会は科学の進歩に敏感だ」、と朝日新聞記者の磯村健太郎氏は述べる。今年1月13日の『朝日新聞』に掲載された「万能細胞とバチカン」と題された記事の冒頭の一節である。
 磯村氏は、続けてこう言う。「京都大学の山中信弥教授らが昨秋、人の皮膚から万能細胞を作るのに成功した時は、[バチカン(ローマ法王庁)は─引用者]『歴史的な成果』とたたえた」。

□ES細胞(胚性幹細胞)iPS細胞(人工多能性幹細胞)
 最近、新聞などでよく目にする万能細胞は現時点で二種類ある。ES細胞(胚性幹細胞)iPS細胞(人工多能性幹細胞)だ。バチカンはES細胞には猛反対をしているが、iPS細胞には歓迎のコメントを出している。
 というのも、磯村氏によれば、バチカンの立場は「受精の瞬間から人間」なので、受精卵を壊して作るES細胞を認めないのは当然だからだ。
(ちなみに、ES細胞については、本blogのこちらの記事を参照のこと。)
 

続きを読む "ES細胞とiPS細胞をめぐる「いのち」の問題"

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2007年11月 6日 (火)

脳のなかに神を探して

Gpss071106_2 □Scientific American.comの興味深い記事
 10月3日付けのウェッブサイト『科学的アメリカ人』(Scientific American)に、「脳のなかに神を探して」という興味深い記事が掲載されている。

こちら

 冒頭の描写は結構刺激的である。厳格な観想修道会として有名なカルメル会の修道女たちが、修道服やベールを脱ぎ捨て、Tシャツ姿で脳神経科学の実験台になっているというのである。しかしそれはけっして冒涜的な行為ではなく、むしろ彼女たちはボランティアとしてすすんで参加していることが紹介されている。

続きを読む "脳のなかに神を探して"

| | コメント (0) | トラックバック (2)

2007年10月23日 (火)

今年度のノーベル賞

□受賞レースしてのノーベル賞
 「科学と宗教」プロジェクト(フォウス社基金:三田一郎・神奈川大学教授および南山宗教文化研究所客員研究員指導)のアシスタントに昨年度着任して以降、いままで読み飛ばしてきた科学関係の記事に目が留まるようになった。今年度のノーベル賞に関する記事もその一つである。
 朝日新聞10月12日朝刊に「ノーベル賞『実用性』に光」という見出しで記事が掲載されている。対象は医学生理学、物理学、化学の三賞で、経済学と文学という社会科学系・人文系の各賞は省かれている。
 ノーベル賞と聞いて思い浮かぶのは、まずいささか下世話な話になるが、「受賞レース」。穏やかな学術研究とは程遠い、激烈な競争の世界であり、オリンピック競技に似ているということだ。情報化社会が進んでその度合いはますます高まっていることだろう。日本訪問時に撮影された受賞者の笑顔に金メダルを獲得したアスリートに似た面影を見出そうとしてしまう。わたしは一時期、京大医学部の先端科学研究棟のまん前に下宿していたことがあるが、まさに年中無休、真夜中でも煌々と電灯が輝く「不夜城」そのものであった。科学の進歩は崇高な理想と激烈な競争意識に支えられていることを象徴する風景だった。

続きを読む "今年度のノーベル賞"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年9月28日 (金)

What Makes Up My Mind?

 以前、このblogで、「『心』『脳』『脳科学』という言葉」と題した記事を執筆し、日本における脳科学の試みを紹介しました。この中で、日本語の「心」という言葉が意味する範囲が幅広いことを述べました。
 これに関連する興味深い記事が、『Washington Post』2007年9月23日号に掲載されています。「What Makes Up My Mind?」と題する記事です(Joel Achenbach氏執筆)。

 Click here

 このタイトルを翻訳すると、「何によって決心するのか?」となりますが、「Mindとは何か?」とも訳すことができます。この記事では、英語における「Mind(心)」の意味の幅広さが説明されています。そして、人間の意識(Consciousness)の不思議さを探求するアメリカ国内のMind研究やBrain science(脳科学)の試みが紹介されています。

続きを読む "What Makes Up My Mind?"

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年9月 5日 (水)

京都大学こころの未来研究センターのご紹介

 今日は、当研究所のプロジェクトと関連する研究に取り組んでいる研究組織を紹介したいと思います。
 今年(2007年)4月1日に発足した京都大学こころの未来研究センター(吉川左紀子センター長)です。
 HPを拝見すると、「センター設置の目的」が次のように掲げられています。

こころの未来研究センターは、心理学、認知科学、脳科学、人文科学等のこころの総合的研究拠点として、人のこころに関する科学的研究を推進する。その研究成果を基盤として地球化時代を生きる人のこころのあり方や人間像についてのヴィジョンを描き出すことを目的とする。

続きを読む "京都大学こころの未来研究センターのご紹介"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年8月 9日 (木)

天使のいざない

 「物理学者が語る『タイムトラベルの理論的可能性』」というきわめて「古典的」なタイトルをもつ記事をインターネット上においてたまたまみかけた。

こちら

もちろん人目を引くことを主目的とする表題に偽りありとは、今に始まったことではなく、このタイムトラベルはただちに想起しうる近未来的な時間移動装置のことではなく、ニュートリノが示す物理学的性格をジャーナリスティックに表現したものにすぎない。とはいえ、記事をなんとか目で追う一方、「ニュートリノ」ともなれば、素人ではとりつくしまもない領域の話として、巨大で、周囲の人間をまるで無視するかのような測定装置の冷ややかな姿を思い浮かべるのが関の山である。

続きを読む "天使のいざない"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年8月 6日 (月)

ロシアにおける「宗教と教育」の大論争

 「ロシア正教VS科学者 『宗教に教育』大論争」と題された興味深い新聞記事が、7月26日の『産経新聞』に掲載されています。
 この記事によれば、ロシア正教が教育現場に浸透している現状を批判する手紙を、ロシアのノーベル賞科学者らがプーチン大統領に出したのに対して、正教側がこれら科学者たちを検察当局に訴える事態に発展し、両者の間で論争が高まっていると書かれています。
 そして、以下のような結びの言葉で記事は締めくくられています。

続きを読む "ロシアにおける「宗教と教育」の大論争"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年7月30日 (月)

創世博物館をめぐる記事のご紹介

□「創世博物館」をめぐって
 アメリカのビジネス、テクノロジー、カルチャーの紹介を通じて「“アカルイ未来”の創造力」を探求するウェッブサイト「WIRED VISION」が、いわゆる原理主義者の反自然科学的性格を体現する「創世博物館」について記事を載せている。

こちらをクリック

Gpss070730_9  一読したところ、この記事はいわば科学を肯定する立場から、比較的冷静にこの博物館の危険性を明らかにしている。そこで間接的に紹介される他の記事も、たんなる批判に終わらせず、好奇心を重視してその博物館の面白さへと視線を向けたものもあれば、啓蒙主義への総攻撃とみなしてはげしく非難するものもある。結局この博物館のような根深い、対話を拒否するような立場へのアプローチとしては、どうしてもゆるがせにできない点、たとえば「敵を『人間ではない』とする」ことへの見極めと批判をたゆまずつづける方向をとるべきだと記者は考えているようだ。それにしても博物館は、「わかりやすい」施設だ。肯定するにせよ、批判するにせよ、その理解しやすさは危険性を含みつつも、世論形成過程において重要な契機となっている。

続きを読む "創世博物館をめぐる記事のご紹介"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年4月19日 (木)

ES細胞をめぐる「科学と宗教」の問題

 今年(2007年)4月12日の『毎日新聞』に、「ES細胞:米上院で法案可決 大統領は拒否権行使へ」という見出しの記事が掲載されていました。
 以下、その一部分を引用したいと思います。

「米上院は11日の本会議で、難病治療への応用が期待される胚性幹細胞(ES細胞)研究への連邦予算の使用制限を緩和する法案を賛成多数で可決した。下院は1月に同様の法案を可決しており、上下両院で一本化した後、ブッシュ大統領に送付する。これに対し大統領は昨年に続いて拒否権を行使する考えを表明した。保守派に地盤を置くブッシュ大統領と、民主党主導の議会側との生命倫理をめぐる対立がさらに深まりそうだ。」(出典:『毎日新聞』2007年4月12日、URL:こちら

Gpss070419_2  ES細胞とは、胚盤胞(動物の発生初期段階)の一部である内部細胞塊から作られる幹細胞細胞株のことです。無限に増殖させることが可能で、人体についてもさまざまな再生医療への応用が注目されており、パーキンソン病やアルツハイマー病治療にも役立つとされています。
 ただし、人体の場合、ES細胞を取り出す際、ヒト胚が破壊されるため、生命倫理の上でさまざまな問題を引き起こしています。
 アメリカでは、ブッシュ大統領率いる共和党がES細胞研究に反対し、民主党が賛成しています。  

続きを読む "ES細胞をめぐる「科学と宗教」の問題"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年4月11日 (水)

「心」「脳」「脳科学」という言葉

 独立行政法人日本学術振興会が刊行している『学術月報』という雑誌があります。おそらく、一般の読者の方には見る機会の少ない雑誌であろうと思われます(ただし、購入はできます。こちらを参照)。
 ちなみに、私は、南山大学図書館で閲覧しました。
 その2007年2月号で、「脳と科学」を特集しており、各論考は短いながらも、いずれも読み応えのある内容でしたので、その一部を紹介させていただこうと思います。
060411a_5   目次は、写真をご覧ください(写真をクリックすると、拡大します)。
 ここでは、特集の中の入來篤史先生による「脳科学からのアプローチ」に注目したいと思います。
(ちなみに、入來先生には、昨年10月、当研究所で「知性の神経生物学――象徴思考進化の萌芽を道具を使うサル脳に探る」をご発表いただきました。)

続きを読む "「心」「脳」「脳科学」という言葉"

| | コメント (2) | トラックバック (0)