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2009年2月 4日 (水)

1998年の読売新聞(東京版)の「心のメカニズム」特集

 近年、新聞等で頻繁に取り上げられるようになった「脳科学」について、1998年の読売新聞(東京版)で大変興味深い記事があった。毎週朝刊に掲載されていた「心のメカニズム」特集だ。1998年当時、世の中が注目した「身近な話題」と「脳」の関係性を紹介している。

■脳は大きな目標が必要
 1月22日の本blogにて、寺尾研究員が執筆した【書評】松本元著『愛は脳を活性化する』(岩波科学ライブラリー42、岩波書店、1996年)の著者が第12回の連載に登場する。

 「意欲が脳を活性化」とのタイトルで、理化学研究所・脳科学総合研究センターにて脳型コンピューターの開発に取り組む松本元氏が1997年に、巨人軍に移った清原和博選手の不振を、ずばり予言したことを紹介している。松本氏は、「入団時のコメントを聞いて、《しばらくスランプだな》と思いましたね」と述べている。これは最新の脳研究の成果から導き出された予測だったとのことだ。
 
「脳はある目標を設定して、その達成に向けて自ら回路をつくっていく。だから、こうありたいと強く思い続けることが肝心であり、一連の脳の働きは意欲によって活性化される」

と松本氏は述べている。また、「清原選手の場合、巨人軍でプレーすることが、子供のころからの夢だったと語っていました。つまり、入団の時点で大きな目標を実現してしまったわけで、昨年は次のステップへの回路づけが、うまくできなかったのでしょう」とも述べている。
 1998年のシーズンが好調だったのは、彼の内面で新たな目標設定がなされ、意欲が再びわいてきた結果ではないか、と記されている。
 かつて、札幌農学校(現北大)のクラーク博士は、「少年よ、大志を抱け!」と呼びかけた。この激励は脳科学から見ても、きわめて妥当だったのだ。
 「脳(我々)を生き生きとさせるには、夢のような容易に実現しない大目標が必要なんです」。読売新聞記者は最後にこうまとめている。松本氏の見解は、経済成長に励み物質的な繁栄を手にした後、息苦しい閉塞(へいそく)感にとらわれ、夢を失いかけた日本人へのアドバイスともいえる。
 脳はある目標を設定して、その達成に向けて自ら回路をつくっていく。だから、こうありたいと強く思い続けることが大切であり(こころ、精神面)、一連の脳の働きは意欲によって活性化される(脳科学)という大変興味深い記事であった。

■愛は脳を支える
 連載第13回の「愛こそが成長への源」は、第12回連載の続きだ。
 大きな夢をもつことによって、脳の情報処理すべき方向が定まり、その働きが活性化される――。理化学研究所の松本元氏の話を聞いて、「なるほど」とは思いながら、ひとつの疑問が残った、と読売新聞記者は述べている。〈目標が大きければ、現実には失敗や挫折の可能性も高くなるのではないか。とすると、意欲も低下して……〉
 「こうした時にこそ、《愛》が必要なんです」。松本氏から、意外な答えが返ってきた、という。
 人間は、様々な生理的欲求を満たそうとするだけでなく、他者との好ましい関係を求める生きものでもある。人から受け入れられ、わかってもらうことで意欲は向上し、脳は活性化するような仕組みになっている。
 愛とは、人とのプラスの関係である。たとえ、厳しい試練にさらされても、自らの存在を丸ごと受け止めてくれる人がいれば、つまり愛に支えられたなら、意欲は再び高まり、脳は問題解決に向けて、新たな回路を形成していく、というわけだ。

 「愛は、人間が成長する源であり、心を活性化させるエネルギーなんです」

 こう語る松本氏は、座右の一冊として新約聖書を挙げる。《愛は寛容であり、愛は親切である》(コリント人への第一の手紙)。
それにしても、「脳研究の最前線で愛やキリスト教が語られるとは。うれしい驚きだった」と、読売新聞記者は述べている。

■「脳科学」に関する記事の傾向
  「脳科学」に関する記事は、読売新聞では90年代初めから少しずつ取り上げられ、90年代後半になると頻繁に掲載されていた。また、書籍に関しても、研究者による「脳」の本の著者の「流行」は、1990年代の養老猛、1990年代後半以降の茂木健一郎という流れになっているようだ。今後も脳科学とこころ(心身)の関係に注目していきたい。 
(「科学・こころ・宗教」プロジェクト担当・細江奈々、南山宗教文化研究所研究員・大谷栄一)

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コメント

こんにちは。久しぶりの投稿です。今回の松元さんに関する記事と前回の書評を読んで思いいたったのが、「言霊」というものです。もちろん日本古代にみられた言霊信仰とはずれがありましょうが、人間って、まさに感じているように発言するとともに、循環的に、言ったように感じ、行動し、そして実際そのようになっていく面があるように思えます。そうした相互形成作用に敏感な状態を「言霊」という発想で表現できるんじゃないかぁ、なんてふと思いました。それに、そうした作用が他者を巻き込み、はては離れている者同士であっても、中間者がこの作用を媒介すれば、相手を遠隔的に「動かす」ことができるかもしれませんね。以上、とりとめのない印象でした。ではでは。

投稿: GREG | 2009年2月 4日 (水) 15:59

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