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2009年1月15日 (木)

韓国でのGPSS Workshopのレポート(6)

<SESSION Ⅲ>

□入来篤史先生の報告
Img_0515  この後、Tea timeをはさんで、SESSION Ⅲが始まった。このセッションは、「脳科学と『こころ』」と題され、脳科学の立場からの「こころ」に対するアプローチとして、ふたつの報告がなされた。司会は、Bernard SENECAL先生が務めた。
 最初の報告者は、日本の理化学研究所入来篤史先生である。入来先生は、「ニホンザルの行動学的および電気生理学的解析を軸として、ヒトの知的高次認知機能の進化的基盤を構成すると考えられる身体の構造や運動に立脚した象徴概念形成、推論/論理思考などの萌芽的機能のシステム神経科学的解析」を専門とされている。

「意図的な生態的機能の構築──新たな『包括的』な人間の進化に関する神経科学的基盤」と題された今回の報告は、入来先生が普段取り組んでおられる、ニホンザルによる道具の使用やトレーニングの映像を紹介しながら、脳のメカニズムを説明し、人間の進化を検討するという内容だった。
 入来先生は、ニホンザルにビデオシステムを用いた道具使用の訓練をして、脳に変化のサインがないかどうかを調べたところ、自らの身体図式に道具を組み込むことを可能にする、神経生理学、分子遺伝子、形態学的な変化がサルの脳の中で起こった、と説明。
この変化は、人工的に引き起こしたものだが、これらの新たな行動と神経接続パターンは、人間のものと重なっているとして、人間の知性のメカニズムを研究したり、非人間の原初的な脳の「原料」から、これらのメカニズムが形成される進化的な道筋を明らかにしたり、人間や非人間の認知的な能力を深く理解するための実験的なプラットフォームとなりうると説明。
 そして、身体的図式、道具の使用、身体イメージ、シンボル操作、メタ自己イメージ、言語、形而上学からなる人間の進化のあり方を、パワーポイントを用いて説明された。
以上のような基盤の上に、人間の文化が築き上げてきた機能である、独自の知性的な人間の脳を作り出す進化的なメカニズムを明らかにする「意志的な生態的機能の構築(Intentional Niche-Construction)」を提案できると強調した。

□質疑応答
 質疑応答では、人間の意識の起源と脳の進化における社会的相互作用の役割について議論が交わされた。例えば、歴史的な進化の過程で、われわれの祖先に最初にトレーニングや道具使用をもたらしたものは何なのか、という問いかけに対して、入来先生は、「自然発生的な出現(spontaneous emergence)」という自分の仮説によれば、種の間のトレーニングや道具使用は自然のプロセスであり、進化の調整は自然の環境の中で自然発生的に起きるので、種の間の社会的相互作用が脳の進化における働きであるといえる、と答えた。
 この「自然発生的な出現」という仮説をめぐって、WALDRON先生から、認知科学における“joint attention”(他者と共同である対象に注意を向ける行動)理論との理論的な結びつきの可能性が指摘された。
 また、HUH先生から、認知科学との対話にスピリチュアリティ(こころ)を持ちこむ試みとして、「種の間の社会的相互作用(social interaction among species)」の概念が「結合的意識(unitive consciousness)」という秘儀的な人間学の概念とパラレルなのではないか、との意見が出された。それに対して、入来先生は、個人的な意識が環境の一部を意味するのであれば、「結合的意識」は自然現象として科学的に説明できると応答した。さらに、このことに関連して、KEEL先生から、「結合的意識」は人間の意識発生の原始的な自然の基礎であるのか、あるいは究極的なスピリチュアルな体験は、トランスパーソナルで超合理的な「結合的意識のような神秘的で秘儀的なものとして言えるのかどうか、という質問が寄せられた。
 それに対する入来先生の答えは、人間は社会的共同体の中に生まれたのであり、基本的なレベルではこの「結合的意識」が見られると思われるが、言語や他のトレーニングを経た後、自分が全体の一部分であるという感覚は消え、よりはっきりと自己の感覚の発達がもたらされるというものであった。
 この後の議論でも、入来先生が提示した人間の知性の発生に関する仮説と、DNA決定論との関係等の興味深い話題が参加者から発せられた。

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