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2009年1月15日 (木)

韓国でのGPSS Workshopのレポート(8)

<SESSION IV >

Img_0529  以上の5人の報告を踏まえて、SESSION IVでは、全体討議が行われた。討議は、田中先生の報告への質問が続く形で進行した。
 まず、スピリチュアリティ(こころ)の解釈における脳生物学的な決定論について議論が交わされた。例えば、「脳の前頭連合野に自由意志(free will)の居場所があるのか?」や「自由意志の発生は、top-downの因果関係や志向性によって組織されるのか?」といった質問が寄せられ、田中先生は、脳科学において、自由意志の発生は脳の前頭連合野で組織されるのがもっとも一般的で、意識はtop-down の注意(top-down attention)と存在論的には同じであると回答された。

 また、意識の歴史的な進化に関する脳科学的な分析や超越的なスピリチュアリティ(こころ)、 内面的な神秘体験の主観的な解釈の妥当性に対する脳科学的な解釈についても議論が交わされた。
 そして、最後に、「科学と宗教」の対話とこのプロジェクトに対する脳科学の貢献の将来的展望についての議論が交わされ、workshopは幕を閉じた。

<まとめ>
 今回、SWANSON先生のOpening presentationで示された通り、mind/spirit/soul とbody/brain/matterのような「完全なる二元論(absolute dualism)」や、物理的な活動にすべてを還元するような「完全なる還元主義(complete reductionism)」を再検討することが重要な課題であり、こうした問題に対して、脳科学や宗教研究がどのように対応し、また、その対応に際して、脳科学と宗教研究はどのようにコラボレートできるのかが、今回の一大テーマであった。
 今回のworkshopは、全体を通じて、まさにこの課題に正面から向き合う内容のものとなった。KIM Heup Young先生やHUH Kyoon先生の議論では、従来の欧米のキリスト教的な問題構成にもとづいて設定された「科学と宗教」の対話という枠組み自体を問い直すことが必要であり、その際、「アジア的視点」やアジアの宗教的・思想的資源が有効な働きをするとの問題提起がなされた。
 また、「完全なる二元論」や「完全なる還元主義」に対して、仏教的な観点から疑問を提示したのが、William WALDRON先生の報告であった。WALDRON先生の場合は、仏教研究だけにとどまらず、認知科学の成果も積極的に取り入れた視点から、デカルト的二元論にもとづく本質主義、実体論を批判し、脳と経験、神経とクオリア(qualia、感覚質)という繊細な次元での認識論的二元論によって、従来の二元論や還元主義を超えうる可能性を示唆した。
 そして、神経科学と脳科学の立場から、脳のメカニズムの分析を通じて、人間の脳の進化的なメカニズムや、人間の脳と目的志向的行為の関係を説明し、「人間の知性の進化」「脳と経験」のあり方に対する視点を提示したのが、入来先生と田中先生の報告であった。
 以上のように、結果として、脳科学や宗教研究のコラボレートが実現したような内容になり、また、「完全なる二元論」や「完全なる還元主義」を克服とまではいかないが、少なくとも、それらを根底的に問い直し、克服するための道筋や方向性を共有することのできたworkshopになったのではなかろうか。
 昨年の台湾におけるworkshopに続き、今回も実り多いworkshopとなり、「科学と宗教」の対話のためのアジア的視点の可能性を感じさせる内容となった。
(南山宗教文化研究所研究員 大谷栄一)

追記:本レポートの作成に際しては、Paul SWANSON先生と、Alena GOVOROUNOVA氏の協力を仰いだ。記して感謝申し上げる。Img_0500

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