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2009年1月15日 (木)

韓国でのGPSS Workshopのレポート(5)

<SESSION Ⅱ>

□William WALDRON先生の報告
Img_0507  昼食をはさみ、SESSION Ⅱがスタート。
 Alena GOVOROUNOVA先生が司会を務め、ヒンドゥー教と仏教研究を専門とし、また、インド仏教の瑜伽行派と現代思想との対話に関する著作をもつアメリカのMiddlebury CollegeのWALDRON先生による“Cognitive Science and Buddhism: A Buddhist Philosophical Critique of Naturalizing Mind”と題された報告がなされた。

 まず、WALDRON先生は、明確に認識された実在や本質として「こころ(mind)」を切り離す試みは、矛盾が生じ、説明が困難であるという。そして、デカルト主義者による実体的な二元論にみられるように、物質的な部分から経験の「心理的」部分を切り離すことは、心身問題の扱いにくさの顕著な例であるとして、この二元論に対する仏教の立場からの批判的検討を行うことが、今回の発表のテーマであることを示した。
 WALDRON先生によれば、中観派(Madhyamaka)と瑜伽行派(Yogācāra)というインド哲学のふたつの有名な学派が相補い合いながらこれらの問題に取り組んできたとして、両派の立場を解説しながら、ものごとを実体的にとらえる本質主義(essentialism)に対して、仏教的な立場からの批判を行った。
 中観派の立場からすると、「こころ」や「意識」は、唯我論的に孤立した本質的な実体的存在であるというよりは、因果的な相互関係の統合されたパターンとして見た方がいい、とWALDRON先生は説明する。
 また、本質主義から因果的な相互関係のパターンへの思考の変化に注目したのは、中観派に続くインド哲学の第二世代の瑜伽行派の唯識哲学だったとして、主体と客体は互いに依存しあうもの(依他起paratantra)であり、完成されたもの(円成実parinirpanna)が究極的な現実になるという唯識の思想を紹介した。
 以上のような仏教的な観点からすると、心身問題は人間経験のプロセスを身体の次元と精神の次元のふたつに切り離し、両者を存在論的に独立した本質や特徴としてとらえることによって生じるのであり、多くの科学的、哲学的アプローチはデカルト的二元論から引き継いだ本質主義、実体論の観点に立っていることを指摘した上で、この二元論の問題を、身体と「こころ」の大まかなレベルから、脳と経験、神経とクオリア(qualia,
感覚質)という繊細な次元に移すことが重要であり、それを存在論から認識論への変化と定式化した。
 しかし、それでも問題はそのまま残るとして、WALDRON先生は、近年のクオリアの議論を紹介しながら、人間経験における主体と客体の問題は、今や認識論的二元論と定式化でき、過去の心身問題は、主体─客体の二元論になったと述べる。そして、新たなモデルを提示することが必要であるとして、瞑想実践の実験を通じて、「意識の神経的相関性(neural correlates of consciousness)」の探求を行うことを提案し、報告を終えた。
 
□質疑応答
 質疑応答では、認知科学と仏教の議論をリンクさせ、また、今回のworkshopのテーマである二元論に関する仏教の立場からの問題提起という刺激的な内容について、さまざまな意見が出されたが、とりわけ、人間的な認知の特徴と個人的なスピリチュアルな体験についての検証が論点となった。その中で、仏教僧侶たちのスピリチュアルな瞑想体験に焦点が当てられた。
 やりとりの中で、WALDRON先生から、僧侶の主観的なスピリチュアル体験に対する実証的な神経科学の研究には不十分点があり、あらゆる瞑想体験に対して、内在的にその体験がなされている文脈の中でアプローチされるべきだという意見が述べられた。
さらに議論は、人間経験に対する科学的な解釈のあやふさに及び、スピリチュアリティ(こころ)に対する認知科学や神経科学の研究は、人間の主観が特別な文化的制約による社会言語的なコードに規定され、慣習的なパターンによって「現実」を表現するために教育されているような「言語化された脳」であるという事実をつねに説明しなければならないことを、WALDRON先生は強調した。ここから議論は、主観/客観の区別をどのように考えるのかという方向に進み、最後に、瑜伽行派と現代の認知科学の間の連結について、再度、話が戻り、議論が終わった。
 WALDRON先生と報告と質疑応答から、古典的なインド哲学の視点が、脳科学や神経科学をめぐる現代的な問題に示唆を与えうることが示されたことを確認できたように思える。

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