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2009年1月15日 (木)

韓国でのGPSS Workshopのレポート(4)

□HUH Kyoon先生の報告
Img_0493  続いて登壇したのは、亜洲大学校メディカルセンター(Ajou University Medical Center)のHUH Kyoon先生である。
 HUH先生は、 “What is the Brain?  Searching for the New Horizons of Neuroscience”というタイトルで、神経科学の立場から、「脳」や「意識」の問題を検討し、「科学と宗教」の関係に関する新しいパラダイムの提示を行った。

 まず、HUH先生は、科学(Science)をマクロ(宇宙論・天文学)、メゾ(エコロジー・生物学─神経科学、化学)、ミクロ(素粒子物理学・量子物理学・ひも理論)に区分し、メゾ科学と、マクロ・ミクロ科学の関係を、よく知られたもの/不思議なもの、擬人的/非擬人的、ニュートン理論的/非ニュートン理論的、リアリズム/非リアリズム、詳細なもの/物理法則と分節し、それぞれの特徴を説明しながら、神経科学の立ち位置を示した。
 そして、報告のテーマである「脳とは何か?」という難問に対して、それがブラック・ボックスではなく、①生物学的な器官、②進化的な産出物、③インフォーマルな処理プログラム、④認知的なモジュール、⑤動態的な複合組織、⑥意識的な生成プログラム、⑦魂の居場所であり、とくに①~④がメインストリームであるという。
 次いで、神経科学の説明に移り、それが①毎日の出来事と経験、②抽象的な主題、③システム科学、④コミュニケーション、⑤メタ科学的なコンタクトを扱うことを示しながら、その限界として、①大量の複雑な構造を扱う技術的制約、②脳から「こころ」までを扱う概念的な制約、③意識から存在までを扱う存在論的な制約があると指摘。
このように神経科学の特徴と限界が示された上で、「意識とは何か?」という難問に対するHUH先生の見解が提示された。
 HUH先生によれば、それは、①イリュージョン、②リアリティの本質的な背景、③まだ発見されていない自然現象、④ミステリーと考えられるという。では、そうした「意識」は何から構成されているのかという点について、HUH先生は、①意識性、②情報処理、③認識、④意思的なコントロールから構成されることを指摘し、「NCC(Neural Correlate of Consciousness)」の概念を提示する。これは、特定の意識体験を起こすのに必要な神経のメカニズムとプロセスとの対応関係に関する理論である。HUH先生によれば、このNCCは必ずしも十分ではない、とのこと。
 以上の神経科学に関する議論を踏まえて、最後に「科学と宗教が出会う時」という、今回のworkshopのテーマについて、HUH先生は次のように述べた。
「科学」と「宗教」の対話は、①不可知論的/悲観的、②合理的/思索的、③ロマン主義的/神秘的、④伝統的/弁明的という対立項によって語られてきて、現在のパラダイムは、両者が対立したものとしてある。しかし、HUH先生の考える新しいパラダイムは、「究極的な現実(ultimate reality)」の中に、「科学」が包含される関係において成り立つ。こした新しいパラダイムを考えるうえでの知的資源としては、①基礎物理学、②情報理論、③記号学、④メディア論、⑤メタ・システム理論、そして、⑥アジア思想があるとして、⑥について、それが「空」の仏教思想、「自然」の道教、「関係性」の儒教であると述べられた。
以上、非常にシステマティックかつ明晰な報告であった。

□質疑応答
 質疑応答の中では、この日、充分に展開されていなかった人間の意識の定義をめぐる議論がなされた。参加者たちは、「脳死」の議論をめぐる観点から、物質的な有機体としての脳と自己意識の非物質的な状態としての意識の関係について意見を交わした。とくに、韓国と日本の間の「脳死」に関する法的定義や、さまざまな国の実際の医療現場における異なった態度等が話題となり、脳と意識の私たちの理解は、「脳死」の定義の仕方や「脳死」の解釈に密接に関連していることが議論の中で強調された。
 また、HUH先生から、神経科学と人文学との交わりについて、「神経哲学(neurophilosophy)」「神経神学(neurotheology)」「神経経済学(neuroeconomics,)」「神経人間学(neuroanthropology)」の可能性が示され、とくに、「神経法律学(neurolaw)」の問題が話題に上り、人間における自由意志のあり方が議論となった。
 最後に、「神経科学が気のような超自然現象の研究に開かれていくかどうか?」との質問に対して、HUH先生は、その可能性はおそらく低いとしながらも、神経科学は人間の精神性の科学的理解の発見に強く関心を持っており、「科学と宗教」の対話の未来を導く力を持っていることを強調した。

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