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2008年8月 8日 (金)

ヒトの受精卵(胚)研究をめぐる生命倫理問題

 このblogでは、以下の通り、ヒトの受精卵(胚)研究をめぐる問題について、たびたび、取り上げてきた。

<ヒトクローン胚>研究解禁に向けて
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万能細胞についての最近のニュース
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ES細胞とiPS細胞をめぐる「いのち」の問題
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ES細胞をめぐる「科学と宗教」の問題
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 というのも、現代世界における「科学・こころ・宗教」の関係を考える上で、この研究をめぐる生命倫理的な問題は避けて通ることができないと考えるからである。

□推進するイギリス、禁止するドイツ
 『朝日新聞』8月8日の朝刊に、「『推進』英国と『禁止』ドイツ/ヒト胚研究に隔たり」という興味深い記事が掲載されていた。今回は、この記事を紹介してみたい。
 この記事では、ヒトの受精卵(胚)研究をめぐる規制や倫理観がヨーロッパでは国によって異なることが報じられている。とくに、イギリスとドイツの明確な違いがEUの共同研究の妨げになっているとの声も聞かれるという。
 ちなみに、ヨーロッパでは、欧州最大の科学者会議「ユーロサイエンス・オープンフォーラム」が2004年以来、2年ごとに開催され、欧州の統一的な研究体制が推進されており、今回の記事も先月に開催された第3回会議での議論の一コマとのこと。

□両国の違いとは?
 ドイツでは、「胚保護法」によってヒトの卵子や受精卵の研究利用が禁じられており、クローン胚づくりも実質的に不可能だという。
 その背景には、「カトリックの影響もあり、与党キリスト教民主同盟など複数の政党が受精卵の研究費用に否定的」である、とのドイツ人研究者の声を紹介している。
 一方、イギリスでは、牛の卵子にヒトの体細胞の核を移植する研究に欧州で初めて着手することが明らかとなった。
 こうした胚は、「ヒト性融合胚」と呼ばれ、イギリスではその是非が大きな議論になった末、ようやく認められたという。
 
□ヒト胚研究の推進/禁止の背景にあるもの
 ここで興味深いのは、ドイツの場合にみられるように、研究の背景に、宗教の問題が指摘されていることである。ただし、「宗教的な理由以外に、各国の歴史と政治事情が大きくかかわっている」との指摘を、この記事に対するコメントの中で、ぬで島次郎東京財団研究員はしている。
 また、ぬで島氏は、「英国は伝統的に科学の実用性を重視する現実的姿勢で一貫している」のに対し、「ドイツはナチス時代の優生政策や人体実験への反省から、ヒトの受精卵や遺伝子を使う研究に強い抵抗がある」と述べている。
 つまり、ヒト胚研究の推進/禁止には、各国・各地域の歴史・宗教(文化)・政治・社会といった複合的な要因が影響しているということが、この記事を通読することで理解できる。
 いわば、ヒトの受精卵(胚)研究には、さまざまな角度からの検討が必要なのである。どうしても、科学政策の推進には、その有効性が速効的に求められる傾向が強いが、今一度、日本でも、あらためて、ヒトの受精卵(胚)研究の行方について注意を喚起してみることが必要ではなかろうか。

□今一度、ES細胞への注目を
 この記事の片隅に、日本の取り組みが紹介されており、それによると、日本では、この5月に文部科学省の審議会が、難病治療のためのES細胞作りが目的の場合のみ、ヒトクローン胚の作製を認める指針案をまとめたとのこと。また、卵子や受精卵の一般的な研究利用についての指針については作成中であるという。
 最近の日本国内では、京都大学の山中伸弥教授らによるiPS細胞に話題が集中している傾向があるが、受精卵から作るES細胞についての政策についても、その動向を今後とも見守るべきではないだろうか。
 (南山宗教文化研究所研究員 大谷栄一)

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