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2008年3月 5日 (水)

ES細胞とiPS細胞をめぐる「いのち」の問題

□対極にある「宗教と科学」?
 「宗教と科学は対極にあると思われがち。しかし、例えばカトリック教会は科学の進歩に敏感だ」、と朝日新聞記者の磯村健太郎氏は述べる。今年1月13日の『朝日新聞』に掲載された「万能細胞とバチカン」と題された記事の冒頭の一節である。
 磯村氏は、続けてこう言う。「京都大学の山中信弥教授らが昨秋、人の皮膚から万能細胞を作るのに成功した時は、[バチカン(ローマ法王庁)は─引用者]『歴史的な成果』とたたえた」。

□ES細胞(胚性幹細胞)iPS細胞(人工多能性幹細胞)
 最近、新聞などでよく目にする万能細胞は現時点で二種類ある。ES細胞(胚性幹細胞)iPS細胞(人工多能性幹細胞)だ。バチカンはES細胞には猛反対をしているが、iPS細胞には歓迎のコメントを出している。
 というのも、磯村氏によれば、バチカンの立場は「受精の瞬間から人間」なので、受精卵を壊して作るES細胞を認めないのは当然だからだ。
(ちなみに、ES細胞については、本blogのこちらの記事を参照のこと。)
 

□バチカンによる賛意 
 それに対して、人間の皮膚細胞(最近になってマウスの胃や肝臓の細胞からの作成にも成功)を用いて作るiPS細胞は、受精卵を必要としないことから、バチカンが賛成の意を表したのだ。
 昨秋、ローマ法王庁の生命科学アカデミー所長で、カトリック聖職者のスグレッチャ氏が「人(受精卵)を殺さず、たくさんの病気を治すことにつながる重要な発見だ」と称賛している(2007年11月23日、共同通信、→click here)。

□「人間としての生命の始まり」とは?
 これらの点だけをみると、どちらの万能細胞がさまざまな人々に受け入れられやすいのかは想像がつくが、果たしてどちらが再生医療に適しているのかはこれからもっと研究を重ねていかなければ分からない。
 そして、万能細胞というと科学的な要素が強く感じられるが、実は科学と宗教がまじわる部分であり、「人間としての生命はいつ始まるのか」という問題に深くかかわってくるのである。
 今後の動向に注目したい。

<参考>世界における万能細胞に対する各国の対応について。
●ドイツ-ES細胞関連の研究より、体性幹細胞の研究に力点がある傾向がある。
●フランス-ES細胞関連の研究より、体性幹細胞の研究に力点がある傾向がある。
●イギリス-積極的にES細胞の研究を行っている。マウスES細胞の初めての樹立など、欧州のオピニオンリーダーとなっている。
●米国-積極的にES細胞などから有用細胞を産生し、再生医療や産業利用を行う志向性が強い。

出典:再生医療の実現化プロジェクト推進委員会「再生医療の実現化プロジェクト第Ⅱ期への提案」より(2007年6月5日、→click here

(「科学・こころ・宗教」プロジェクト担当・細江奈々、南山宗教文化研究所研究員・大谷栄一)

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コメント

たしかにiPS細胞の開発は、ES細胞の利用に反対するバチカンにとって朗報なのでしょう。ただし日本で、というか世界でこの領域のトップを走る山中教授(京大)は、バチカンに行った理由を、自らの研究がES細胞研究への阻害にならないよう、つまりバチカンの「誤解」を黙認するかたちにならないよう自分の意見を主張するためであり、もし治療に必要ならば自分のES細胞を提供するにもなんら躊躇しないと語っています。(以下の動画から)

http://www.yomiuri.co.jp/stream/ips/ips03.asx

言葉の端々から宗教に巻き込まれることへの警戒感が感じ取られます。科学と宗教とのあいだでは、こうした微妙な問題をめぐって、「駆け引き」がなされているのです。「結果よければすべてよし」という立場もありえましょうが、科学と宗教の歩みは見事に足並みを揃えているわけではないことは知っておくべきかもしれませんね。これからも多々「神話」が生まれることでしょう(しかし、そうした神話を求める心情にもまた目を向ける必要がありますね)。

投稿: GREG | 2008年3月12日 (水) 15:46

otani(管理人)さん>
よろしければ、TB お願いいたします。

投稿: コンドウ | 2008年4月 3日 (木) 02:32

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