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2007年12月20日 (木)

単行本『科学 こころ 宗教─科学から見る「こころ」の意義』に関するworkshopの開催

 去る12月8、9日に、南山宗教文化研究所にて、workshopが開催されました。
 今回は、昨年5月に当研究所で開催されたシンポジウムにご登壇いただいた先生方を中心にお集まりいただき、シンポジウムの記録をまとめた単行本『科学 こころ 宗教─科学から見る「こころ」の意義』に関してコメントをいただき、今後のプロジェクトの実施に際して、深めるべきテーマや取り上げるべき課題を問題発見志向的に検討するという参加者限定のworkshopでした。
 参加された先生方から提示されたコメントや議論を通じて明確になったテーマ、論点や課題は、以下のことです。

□「科学と宗教」をつなぐもの
 「科学と宗教」をつなぐものは何か? また、「つなぐ」ということは何を意味するのか? こうした作業が得意な分野は、整理能力・接続能力を有する哲学だが、現在の哲学にそうした作業ができるだろうか。
 今回、あらためて「科学と宗教」の関係という問題設定とそのアプローチの難しさが確認された。また、「科学と宗教」の研究は、これまでキリスト教的な制約が強かったが、日本社会のコンテクストで「科学と宗教」の関係はどのような意味を持つのかを再検討する問題設定が必要であろう。

□「こころ」のありかとあり方
 このプロジェクトでは、「科学と宗教」をつなぐ役割を果たすのが、「こころ」である。しかし、「こころ」をどのように考えたらよいのだろうか。「宗教」が「こころ」の働きであり、「こころ」は脳の中にあるとするならば、「こころ」は「科学」で説明できる、と考えることもできる。
 なお、「こころ」の発達において欠かせない言語の習得が進むと、記憶能力が減退するという難問、つまり「こころ」の成長の背後にはなにかが喪失される側面がある。
 台湾のworkshopでは、日本語、中国語、サンスクリット語、英語など、さまざまな言語での「こころ」の多義性が確認されたが、その定義とともに、「こころ」のある場所とそのあり方も検討する必要がある。
 例えば、台湾のworkshopの報告の中で、神経科学を専門とする香港大学の陳應城(Ying-Shing Chan)先生は、人間の全体性がスピリチュアル、サイコロジカル、バイオロジカルという3象限によって説明されたが、スピリチュアルは、サイコロジカルやバイオロジカルを含む全体性と考えることができるかどうか。
 また、今回のworkshopでも、スピリチュアリティは身体性と精神性を包括する概念ではないかと指摘された。
 本プロジェクトでは、「こころ」を「スピリチュアリティ」と捉えているが、日本語の「こころ」をどのように翻訳することができるだろうか。

□「科学」の再定義に向けて
 「普遍性」「再現可能性」「実証可能性」が科学の説明の仕方であるが、時間的な発展を伴う進化的な、歴史的な現象や一回的な現象は、科学になじまない。とすれば、歴史的で個別的な特徴をもつ「宗教」や「こころ」は科学で説明できるのだろうか? 
 また、ノーベル賞に象徴される科学の発展は100年程度の歴史しかなく、しかも現代の拡大・変化する科学観に合わなくなってきている。
こう考えると、「宗教」や「こころ」を説明する「科学」の立場が必要であり、「科学」の再定義が求められている。つまり、400年間の近代科学のあり方を設定しなおすという大きな枠組みを提起できるのではないだろうか。

□「宗教」からの「こころ」へのアプローチ
 昨年のシンポジウムでは、科学の研究課題として「こころ」を扱うことに対する成果は出た。しかし、宗教の立場から、「こころ」をどのように扱うのかという視点はなかった。
宗教研究の中で、「こころ」をどのように定義するのか、また、そもそも「こころ」を扱いうる「宗教」とは何か、そうした根本的な検討も必要なのではないか。
 さらには、「感性」という発想も近年ヨーロッパの科学界で語られるようになっており、「こころ」の身体的表現の背景には「emotion」の要素(情緒が高ぶると心臓の動悸がする等)があり、この点を検討することも重要であろう。
 
□「鳥の視点」と「虫の視点」
 「鳥の視点」とはものごとを俯瞰して見る理論的な立場、「虫の視点」とはものごとを経験に即して見る経験的な立場であり、両者を対立させるのではなく、区別しつつ、両方の視点を生かすことが重要である。
 例えば、「こころ」を扱う際、「鳥の視点」からのみ見るのではなく、「虫の視点」も生かしながら、分析していくことが必要ではないか。
「鳥の視点」は全体像を俯瞰するので、問題点をただちに発見し、それに対処しようとすることに長けている。他方、即地的な「虫の視点」はマニュアル化できないことをなんとか経験的に処理することに長けている。この「虫の視点」は従来宗教の領域で観察されてきたが、日本的な科学思考や日本の工業の将来を占ううえでも重要性を秘めている。
(南山宗教文化研究所 大谷栄一、寺尾寿芳)

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» 科学・こころ・宗教 [Buddhi Prakash]
こちらのエントリ で紹介した P・L・スワンソン監修 『科学・こころ・宗教 ―― [続きを読む]

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