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2007年4月19日 (木)

ES細胞をめぐる「科学と宗教」の問題

 今年(2007年)4月12日の『毎日新聞』に、「ES細胞:米上院で法案可決 大統領は拒否権行使へ」という見出しの記事が掲載されていました。
 以下、その一部分を引用したいと思います。

「米上院は11日の本会議で、難病治療への応用が期待される胚性幹細胞(ES細胞)研究への連邦予算の使用制限を緩和する法案を賛成多数で可決した。下院は1月に同様の法案を可決しており、上下両院で一本化した後、ブッシュ大統領に送付する。これに対し大統領は昨年に続いて拒否権を行使する考えを表明した。保守派に地盤を置くブッシュ大統領と、民主党主導の議会側との生命倫理をめぐる対立がさらに深まりそうだ。」(出典:『毎日新聞』2007年4月12日、URL:こちら

Gpss070419_2  ES細胞とは、胚盤胞(動物の発生初期段階)の一部である内部細胞塊から作られる幹細胞細胞株のことです。無限に増殖させることが可能で、人体についてもさまざまな再生医療への応用が注目されており、パーキンソン病やアルツハイマー病治療にも役立つとされています。
 ただし、人体の場合、ES細胞を取り出す際、ヒト胚が破壊されるため、生命倫理の上でさまざまな問題を引き起こしています。
 アメリカでは、ブッシュ大統領率いる共和党がES細胞研究に反対し、民主党が賛成しています。  

 ブッシュ大統領が反対する理由として、東京大学の島薗進先生(宗教学専攻)は、「受精の瞬間から人間の生命は始まっており、それを破壊することは殺人に等しいとするキリスト教勢力の支えがある」と述べられ、研究の容認と推進を求める科学者、患者団体、民主党との論争の背後にあるものを、次のように指摘されています。

「この論争の背景には、人工妊娠中絶の是非をめぐって長年争われている生命尊重派(プロライフ)と選択権尊重派(プロチョイス)の闘争がある。宗教的な論点が根底にあるのだ。」(「人の胚を研究利用することの是非 生命倫理と宗教文化」渡邊直樹編『宗教と現代がわかる本2007』平凡社、2007年、120頁)

 つまり、このES細胞をめぐる問題は、(島薗先生のおっしゃる)人間の<いのちの始まり>をどのように考えるのかという問題であり、また、「科学と宗教」の問題であるといえます。島薗先生は、この「いのちの始まり」をめぐる生命倫理問題について、アジアの宗教文化から見直すことを(前述の論考の中で)提起されています。
 科学的な政策をめぐって、その地域の文化や宗教の観点から、その問題性を問い直し、議論に関わることは重要なことではないでしょうか。
 このES細胞をめぐる問題については、今後も注目していきたいと思います。(南山宗教文化研究所研究員・大谷栄一)

 追記:なお、今回の記事の所在は、宗教情報センター(HP:こちら)のご教示によります。ご協力に記して感謝申し上げる次第です。

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